本とわたしを離さないで

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2017.08.15

blackbird からの手紙 3 2017.8.15

真夏の昨日、陽が沈んで、真っ黒に日焼けしたあなたとお姫さまごっこをした時にね、(僕はもちろん王子様)

「踊りましょう」とあなたが言ったんだよ。

僕は疲れてたけどあなたが満足するまで二人で手を取り合って踊ったよ。畳の上で。

あなたは真剣で、一切笑わずに、お姫様になりきっていて、汗を流しながら踊っていたよ。

僕はそれを見ていたら、疲れが吹っ飛んだよ。

それからね、売上がいいと悪いとか、じいちゃんはそろそろ逝ってしまうなとか、夏は電気代かさむなとか、

誰のための政治やねんとか、税金返せとか、読んでいない本がどんどん溜まっていくなとか、観たい映画があるなとか、

あなたとフェスに行きたいなとか、あの本仕入れるかどうしようかなとか、

そんなこと全部どうでもよくなってしまったよ。

ただただあなたを可愛い人だなあと思い、生まれてきてくれてありがとう、と思ったよ。

40近くなっても夏の夜は切なくなるんだなと思ったよ。

踊る姿をちゃんと目に焼き付けておこうと思ったよ。

今しか見られないからね。

来年の夏は初めての夏休みですね。

頑張って遊ぶ時間作ります。

 

 

2017.08.09

ロッテルダムの灯 / 庄野英二

あるお店の方にオススメして頂いた「ロッテルダムの灯/庄野英二」が大変面白かった。

弟の庄野潤三が好きでこれまでよく読んで来たけれど、恥ずかしながら庄野英二は読んだことがなかった。

「ロッテルダムの灯」は日中戦争、太平洋戦争を戦場で過ごした本人によるエッセイで、まえがきには「風にささいやいたものにすぎない」と記している。

戦争を題材にした小説のように劇的なドラマや修羅場が出てくるわけではない。

また、大変な苦しい思いをした、という痛切な出来事を語るわけでもない。

ただ現地で本人が見たもの、そして出会った人々についてありのままに語っている。

そこには敵や味方ではなく人間同士の交流が描かれている。

そして、とにかく花の名前をタイトルにした作品がたくさん出て来る。

そばの花、相思樹、うつぼかずら、マリーゴールド、カーネーション、椿、菜の花、サンパギータ、菊、カトレア、そしてバラ。

兵舎のあった豊橋、中国大陸、マレー半島、インドネシア、、それらの国々で見た花。

美しい花の思い出ばかりではないけれど、(そこには怒りや哀しみもあるが庄野さんはそれを軸には書いていない)

戦地にあっては悲惨な日常をふっと忘れせさてくれるものとして植物のその姿、香りが強く印象に残っていたのかも知れない。

それらの花にまつわる出来事が淡々と静物画のように綺麗な文体で描かれていて、戦時中の事とは思えない。

けれど、僕が戦時中の出来事の何を知っているというのだろう。

こういった本に出会う度に僕は何も知らないのだ、と痛感する。

 

「母のこと」という作品に中国で敵の一団に突撃するシーンがある。

敵の機関銃が雨あられと降ってくる中で突撃していく二十歳を過ぎたばかりの庄野青年は右肘に銃弾が命中し、

「生まれてから一度も経験したこともない、力とスピードと焼きただれるようなものが一緒になった強力な衝撃を受けて私の運動が停止させられてしまった」と書いている。

その時やられたと同時に頭をよぎったのは「母に叱られる」という観念だったらしい。いたずらを見つかった子どものような。

そしてその戦場でまわりの兵が戦死していくなか、庄野青年は日本へ搬送される。病院を見舞う母はもちろん叱るのではなく自分に責任を感じ「ごめんよ、かんにんしてよ」としきりに謝ったそうだ。

この本でほとんど唯一と言っていいほど臨場感のあるシーンだけれど、一つの真理が書かれているようで僕はまた自分の無知を恥じ、この本を何度も読み返そうと思うのだ。

 

※僕が買ったのは(ほとんど譲って頂いた)理論社の古い本ですが講談社文芸文庫からも出ています。

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2017.06.22

“DON’T LOOK BACK IN ANGER”

OASIS

oasisの”DON’T LOOK BACK IN ANGER”という有名な曲がある。

oasisは(確か)ビートルズ以降最も売れたイギリスのロックバンドでこの曲が収録された2nd albumは(確か)1000万枚近く売れたそうで、

日本でも人気のバンドだった。

イギリスで恐らく彼らの名前を知らない人はいないだろう。日本で宇多田ヒカルの名前を知らない人がいないように。

 

僕も彼らが大好きで何度もライブへ足を運んだ。

この”DON’T LOOK BACK IN ANGER”という曲はピアノのイントロから始まるミディアムバラードでライブでは定番のハイライトになっている。

この曲を作ったギタリストの兄(oasisはボーカルとギターの兄弟が中心となっていたバンドだがここでは詳しく話さない)、ノエル・ギャラガーの歌声に合わせオーディエンスも一体となり大合唱となる。

ピアノのイントロが流れるだけで瞬時にその場にいる誰もがあの曲が始まるのだ、と理解する。(FIRST LOVEのイントロのピアノだけで誰もが理解するように)

歌を歌っているとわけもなく涙腺を刺激するメロディーというのがあるけれど、この曲もつんつん刺激してくる。

高校の頃に出会って何度も何度も聴いているけれど、なんだかんだ言ってもいい曲だなとしみじみ思う。

ただ正直に言うと、何度も歌いながら”DON’T LOOK BACK IN ANGER”という意味を上手く噛み砕けずにいた。この約20年もの間。

 

先日マンチェスターで悲劇が起こった。周知のようにコンサート会場でテロが発生したのだ。怒りしかない。

このテロの情報を追っていたら地元マンチェスターの追悼集会で、ある女性が身体を揺らしながら”DON’T LOOK BACK IN ANGER”を口ずさみ、集まっていた人々が次々に歌いだす映像を見た。

oasisはマンチェスター出身のバンドである。

僕はその映像を見ながら初めてこの歌の意味を理解した。というより、頭ではなく身体で理解したように感じた。

20年間、何を歌っているのだろう、と思いながら口ずさんで来たこの曲がすっと身体に入ってくるのを感じた。それはライブで高揚するものとは全く違ったものだった。

作った本人の意図や意思(もしそんなものがあるのなら)とは関係なく、歌詞の意味とは関係なく、単語の意味などではなく、それを歌う人々見て、そうか、そういう曲だったのか、と腑に落ちた。

本を読んだり、音楽を聴いたり、映画を観たりしていると身体に染み込んでくるようなこの感覚。

希望も絶望も一つの塊になって身体の中に飛び込んでくる。

あの集会で口ずさんでいた人々の脳裏に浮かんでいたのがそれぞれ全く別の風景だったとしても、同じ歌を歌い明日へ向かっていたという事実が傷ついた人々を奮い立たせていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

2017.05.21

ブックストアで待ちあわせ

bbbをご贔屓にして下さっているあるご夫婦がいる。

月に一度か二度は必ず来られる。

ご主人は無類の本好きであまり時間をかけずに選ばれたものをさっと棚から抜き取りレジに持って来る。

去り際に「また来ます」と言って自転車に乗り帰っていく。

奥様はお花が好きで僕の相方が選んだ花を毎月喜んで買って帰る。

去り際に「ありがとうー」と言って彼女もまた自転車に跨り帰っていく。

時々お二人は時間差でやって来る。

大抵奥様が先にやって来て、しばらくするとご主人がやって来る。

どちらかが買い物か用事を済ませてやって来るようだが細かいことは聞かない。

「今日はお一人ですか?」と奥様に聞くと

「そやねん、珍しいやろ」とニヤニヤする。そうしている内にご主人がやってくる。

「あ、来た」と何事もなかったように言う。

「待ち合わせですか?」

「そやねん。待ち合わせと言えばここしかないやろう」

僕はそれを聞きたくてわざと聞いてみたりするのだ。

最近の人は待ち合わせをすることが下手くそになった、と保坂和志が何かの本で書いていたけれど、

それは場所のことだったか。時間のことだったか。

どこかで誰かを待つ、ということは決して時間の無駄ではなく、貴重な時間だと思う。

そんな時間をウチに預けて下さって感謝しかない。

僕が初めて相方と待ち合わせをしたのは梅田のブックストアだった、ということを思い出した。

 

 

 

 

 

2017.05.20

カップルズ

カップルが店にやって来る。

多くは片方が片方を誘ってやって来る。

男が本を見たくて女を誘う。

男はじっと黙って本棚を順に眺めていく。

女は雑誌をパラパラとめくり、すぐに退屈そうに店を歩き回る。

女が本を見たくて男を誘う。

女も黙って本棚を眺めたり、探していた本が見つかると「これ見て」と言う。

男は退屈そうにアート関係の本をめくったり、女の横をくっついて歩く。

極稀に二人共がウチを目がけてやってくることがある。

ドアを開けて入るなり無言になってあらゆる本を手に取っていく。

ページをめくる音だけがパラパラと聞こえてくる。

僕は出来るだけ音楽のボリュームを下げる。

いづれにせよ、デートの予定に本屋が組み込まれていることは嬉しい。

ここで買った本が思い出になればなお嬉しい。

何といっても本は形として残るものだから。

僕はどうだったか。

デートに本屋へ行ったかな。

答えは、風に吹かれてもう手の届かないところにある。