本とわたしを離さないで

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2012.07.24

ミヒャエル・エンデ / モモ

 「忙しい、というのは心を失う、ということなんだよ」
この本を読んで思い出したのはこの言葉です。
どこで誰から聞いたのか僕は思い出せません。あるいは本で読んだのかもしれません。

ある日、実家の妹の本棚から「モモ」を失敬しました。手元には愛蔵版もあります。(これは友人から頂きました)
時間に追われ、お金を追いかけていくとどうなってしまうのか、童話という形式を取って描かれています。(時間を銀行に貯蓄する、というお話になっている以上、お金も恐らくこの本では重要なテーマだと思います)

多くの絵本や童話というのは大人にも読まれるべきものだと思うけれど、この本は正にそういった本の代表作と言っていいと思います。
読み継がれていく本というものはいつの時代にも通じるテーマがあり、何よりも人間の本質を抉り出しているものだと思います。そこには人間の素晴らしさと愚かしさが同居している。

子供たちがそうであるように、初めから全ての人間がここに描かれている「灰色の人間」ではないですよね。「何か」に心を支配され、色を失っていくものです。

あとがきで作者(あとがきにおいてこの物語はひとから聞いたと言っていますが、ここでは触れません)が鋭いことを言っています。

「わたしはいまの話を、過去に起こったことのように話しましたね。でもそれを将来起こることとしてお話してもよかったんですよ。わたしにとっては、どちらでもそう大きな違いはありません」

この物語は1973年に発表されています。

現代において、多くの人が感じているように僕も簡単な言葉で言ってしまえば、「幸せ」について考えています。
「モモ」がそうであるように人の心に耳を傾け、価値観に縛られず、少しの勇気があればそれに近づくことが出来るのかもしれない。
そういったことを「考えさせてくれる」この本は素晴らしい本だと思います。

2012.06.18

芥川龍之介 / 蜜柑



何度も読み返している小説の一つに芥川龍之介の「蜜柑」があります。
とりわけ、この素晴らしい「ちくま日本文学全集」の芥川龍之介を心斎橋の古本屋さんで買ってからは何度も読みました。


短いけれど、日常に誰もが感じた事のある疲れ、気付き、喜びを分かり易く書いたものです。
二十歳を過ぎた頃、難しいことを考える事はない、こういった小説を書きたい、書けばいいのだ、と僕は思ったのです。今も思うことがあります。
日常をこの蜜柑の様に一瞬でも暖かく彩ってくれる小説を届けたい、と。


最後のセンテンスが好きです。
「私はこの時始めて、云いようのない疲労と倦怠とを、そうしてまた不可解な、下等な、退屈な人生を僅かに忘れる事が出来たのである」


帰宅途中や、眠る前に、この小説の風景を思い浮かべます。少女の手を離れ、汽車の窓から子供たちの頭上へばらばらとこぼれ落ちていく日の色に染まった蜜柑を。
そして少し暖かい気持ちになります。
小説が僕の身体に血となって流れているのを感じます。
だから、本を読むことは辞められません。

2012.06.08

植本一子 / 働けECD

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ラッパー「ECD」の妻であり写真家、植本一子さんの育児(混沌)記です。
帯にはこう書かれています。
「月給16万5千、家賃11万、家族4人(と猫3匹)、生活してこれたのが不思議でしょうがない」
もともとECDの本が好きだったし、僕も子供が出来て簡単な家計簿を付けるようになったから手にとってみたのです。
そして僕もこの帯の文言に少し近い生活をしている。そしてそれを僕は恥ずかしい事だとは思っていない。そしてもちろんこの本にはそんな事に一言も触れていない。そんな本は面白くもなんともないですからね。

この本に収められた育児記は2010/2/11に始まり、2011/4/19に終わっています。各日付には家計簿が添えられています。電気代、食料、猫エサ、缶コーヒー、散髪代、ふりかけ、アイス、バス代、などなど日常が細かに刻まれていきます。やはりラッパーだけあって、レコード、CDの出費が凄まじい。僕も自慢では無いですがかなり音楽にはお金を掛けるほうです。しかしそれを生業にしている人とは比較にならない。

始まりはコーラ飲みすぎ、今日もレコード買ってる!など微笑ましい内容が多いのですが、日記が進むにつれ、一子さんの主に夫や家族、友人、周りの人々への気持ちがかなり赤裸々に綴られてくるようになります。ただの家計簿ではない。感謝、怒り、悲しみ、喜び、親への複雑な感情。そこには「生きている」という事実がはっきりと刻まれている。
そして僕は毎日どたばたと喜びと悲しみを背負ってこんな風に生きている家族が世界中にたくさんいるんだよな、と思いを馳せます。僕の隣に住む家族も、上に住む足音がバタバタうるさい家族もきっといろんな物を背負っているんだろうなと想像します。

やがて東京のど真ん中で3.11を迎え混沌に飲み込まれていく家族。そこではいかに「家族」や「友人」との絆が大切なのかに気付かされる。この部分は是非買って読んで頂きたいと思います。

あとがきのタイトルは「今日も誰かのために生きる」
お金に心を奪われて失ってしまったものはつまりこういうことなのだろうと思います。

ちなみに2009年にECDが書いた家族生活「ホームシック 生活(2~3人分)」(フィルムアート社)も素晴らしい本です。

2012.05.25

能勢仁 / 世界の本屋さん見て歩き

本屋さんをやろうと思っているので当然と言うべきか、本屋さん関連の本を読み漁っている。その中で一風変わった本に出会った。それがこちらの「世界の本屋さん見て歩き(出版メディアパル)」。題名通り著者が世界中の本屋さんを見て歩き、それらの本屋さんについて感想を述べていく。読んでみると分かるのが、これは本屋さんガイドというよりも旅行ガイドに近い。「世界の歩き方」とセットで持ち運びたくなる。


何が面白いかと言うと何よりも著者の文体が非常に読み易く(無駄がなく)、時に冗談とも思えるような語り口調で綴られているので他人の日記を読んでいるような気持ちになってくる。また、書店とは全く関係の無い冒頭かと思えばきちんとお店の内部に入り込んでくる内容に「ふむふむ」と言った感じで読み進められる。まずはきちんとその国の背景を説明する。


例えばこのように。
「ノルウェーの教育制度は小中学校は義務教育で無料である。教科書は有料で年間7~8万円かかるので親の負担になっている。高校は試験がなく入学できる。大学入試は高校の成績のよって入学が許可される。成績不振の学科がある場合には入学できないが、その救済として特別の授業を受けることが出来る」


「ギリシャはヨーロッパ圏であるが、一番アジア寄りの国という見方も出来る。面積は日本の約三分の一(北海道+九州)とそれほど広くはなく、山岳地帯が80%以上もある。総人口は1100万人(内アテネ市に360万人)で、東京都の人口より少ない。言語はギリシャ語であり、文字はギリシャ文字でその難解なことに辟易とした」


「オーストリアは第二次世界大戦の時には中立国として戦争には参加しなかった。そのために戦後は、国連関係の機関が多く置かれる都市となった~首都ウィーンは音楽の都である。日本では毎年、元旦に中継されるニューイヤーコンサートがウィーンの楽友協会から送られてくる映像を見ている人は多い。シュトラウスの華麗なワルツを聴いていると、また行ってみたいと思ってしまう」


「言語はタイ語、文字はインドのサンスクリット文字によく似たタイ文字である。街の中の看板がタイ文字で書かれているので、参ってしまった。まるでチンプンカンプン、だが最近になって英語表記が多くなったというので助かった。しかし英語はホテル以外はほとんど通用しないので、タクシーに乗るときは要注意である。時差は2時間なので時差ボケの心配はない。人口の約90%が仏教徒であるから、国民性は穏やかで優しい」


こんな感じで35カ国、202書店が案内されている。時差の話が出てくるのはタイだけだった。書店の名前はほとんど頭に入らなかった。それよりもその国の出版事情がよく理解出来た。出版社直営の書店が世界には多い。ヨーロッパに始まり、後半はアジアに入るのだが、後半の方が熱を帯びている気がする。国ごとのページ数も多くなっている。経済発展と同じように書店の未来を想像出来たのかも知れない。
ちなみに僕が一番驚いたのはこのセンテンスだった。
「世界中の書店で、書籍と雑誌を一緒に販売しているのは日本だけである。」
イタリアのページより。
ちなみに本屋ガイドみたいな本は数多あるが、書店の写真や店主のインタビューものが大半を占めているので日本の地方都市ごとの考察、書店の紹介をまとめた本はあまり無いので日本版も是非書いて頂きたい。
ブログもすっかり文体の影響を受けている。。

2012.05.11

カズオ・イシグロ / わたしを離さないで

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大好きな小説家カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を読み返してみました。
本当に不思議な小説です。ふと突然にあの物語は何の話だったのだろうと考える事があります。恐らく頭の中に「わからない」がずっと残っているんですね。こういった小説は何度も読み返してみたくなるもの。僕が好きになる小説の要因の一つだと思います。

初めて読んだとき、およそ1/3を読むまで一体これは何の話をしているのか、ここに出てくる人々は何者なのか、想像力を働かせながら読みました。読書をする時間が代えがたく貴重な時間に思えました。

「記憶」が小説を書く際の最大のモチーフだとNHKのドキュメンタリー(確かNHK)でイシグロさんは語っていました。実際イシグロさんの小説ほとんど全ては過去を回想する形で綴られています。「わたしたちが孤児だったころ」では「あれは何年前だった」など過去を追想する場面が頻繁に出てきます。時系列を追えなくなるほどに。混乱を多少覚えながらも物語の世界にぐいぐいと引っ張り込んでいくその力に僕は魅了されました。

そしてこの「わたしを離さないで」は現実とは全く世界の住人が現実とは全く切り離された世界について語っているように思えるのですが、最終的には僕が息をしている世界と何ら変わりのないことに気付かされ、悲しみに近いものを覚えました。

私達が「記憶」を元に生きていることは間違いないのですが、それは悲しいことなのか、優しいことなのか、暖かいことなのか、考えさせてくれます。それをこういった驚くような設定でかつ静かに語られる文体に繰り返し僕は魅了されます。読書の喜びそのものです。

ちなみにハヤカワepi文庫から出ている文庫は2冊買ってしまいました。4刷までが松尾たいこさんのイラストで5刷から民野宏之さんのイラストのようです。恐らく、映画化の関係でしょうか。その映画、まだ見ていないんですよね、うーん、見たい。