本とわたしを離さないで

2012.05.11ブログ

カズオ・イシグロ / わたしを離さないで

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大好きな小説家カズオ・イシグロ「わたしを離さないで」を読み返してみました。
本当に不思議な小説です。ふと突然にあの物語は何の話だったのだろうと考える事があります。恐らく頭の中に「わからない」がずっと残っているんですね。こういった小説は何度も読み返してみたくなるもの。僕が好きになる小説の要因の一つだと思います。

初めて読んだとき、およそ1/3を読むまで一体これは何の話をしているのか、ここに出てくる人々は何者なのか、想像力を働かせながら読みました。読書をする時間が代えがたく貴重な時間に思えました。

「記憶」が小説を書く際の最大のモチーフだとNHKのドキュメンタリー(確かNHK)でイシグロさんは語っていました。実際イシグロさんの小説ほとんど全ては過去を回想する形で綴られています。「わたしたちが孤児だったころ」では「あれは何年前だった」など過去を追想する場面が頻繁に出てきます。時系列を追えなくなるほどに。混乱を多少覚えながらも物語の世界にぐいぐいと引っ張り込んでいくその力に僕は魅了されました。

そしてこの「わたしを離さないで」は現実とは全く世界の住人が現実とは全く切り離された世界について語っているように思えるのですが、最終的には僕が息をしている世界と何ら変わりのないことに気付かされ、悲しみに近いものを覚えました。

私達が「記憶」を元に生きていることは間違いないのですが、それは悲しいことなのか、優しいことなのか、暖かいことなのか、考えさせてくれます。それをこういった驚くような設定でかつ静かに語られる文体に繰り返し僕は魅了されます。読書の喜びそのものです。

ちなみにハヤカワepi文庫から出ている文庫は2冊買ってしまいました。4刷までが松尾たいこさんのイラストで5刷から民野宏之さんのイラストのようです。恐らく、映画化の関係でしょうか。その映画、まだ見ていないんですよね、うーん、見たい。