2012.06.18ブログ
何度も読み返している小説の一つに芥川龍之介の「蜜柑」があります。
とりわけ、この素晴らしい「ちくま日本文学全集」の芥川龍之介を心斎橋の古本屋さんで買ってからは何度も読みました。
短いけれど、日常に誰もが感じた事のある疲れ、気付き、喜びを分かり易く書いたものです。
二十歳を過ぎた頃、難しいことを考える事はない、こういった小説を書きたい、書けばいいのだ、と僕は思ったのです。今も思うことがあります。
日常をこの蜜柑の様に一瞬でも暖かく彩ってくれる小説を届けたい、と。
最後のセンテンスが好きです。
「私はこの時始めて、云いようのない疲労と倦怠とを、そうしてまた不可解な、下等な、退屈な人生を僅かに忘れる事が出来たのである」
帰宅途中や、眠る前に、この小説の風景を思い浮かべます。少女の手を離れ、汽車の窓から子供たちの頭上へばらばらとこぼれ落ちていく日の色に染まった蜜柑を。
そして少し暖かい気持ちになります。
小説が僕の身体に血となって流れているのを感じます。
だから、本を読むことは辞められません。
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