本とわたしを離さないで

2019.03.12ブログ

『ことばの生まれる景色 辻山良雄:文 nakaban:絵』を読んで

辻山さんに初めてお会いした時、山のような人だと思った。

岩肌の見える先の尖った険しい山ではなく、学校の校庭やショッピングセンターの屋上、または新幹線の車窓から見えるような町を囲む緑の深い静かな山だ。

言葉を交わすとじっとこちらの目を見つめ、動かずにずっとこちらの声を待っている。

実際に辻山さんは身体が大きく、また学生時代登山サークルに所属していて、今も山に登るのが趣味らしい。

 

この本では星野道夫、須賀敦子、谷川俊太郎、ガルシア・マルケス、サリンジャー、カフカ、村上春樹、宮沢賢治、武田百合子、庄野潤三、ミヒャエル・エンデなど読書好きであれば思わず手が伸びる作家の本が紹介され、その作家の入口としても比較的読みやすい本が掲載されているが、もう一つの読みどころとして辻山さんの個人的な体験がことばを生み出していることで、そのことばは僕らの内面にあるものと地続きであったり、そのことばを今求めていたのだ、と思わせてくれる不思議な魅力が溢れていることだ。

石牟礼道子を読んで水俣に向かい、東日本大震災以後、柳田国男や宮沢賢治を思い浮かべ「東北」の山を訪ね歩く。少年時代の記憶や学生時代の話は今村夏子と村上春樹に結びつき、コルビュジェの「小さな家」を自身の実家と重ね合わせ、岸政彦の書く大阪を歩き地元の銭湯に入る。辻山さんの個人的な体験を通してしか生まれないことばが作家たちの物語と交差していく。その交差点で立ち上がる景色は確かに僕らがどこかで見た景色だ。

 

辻山さんの書店「Title」は荻窪の街の中に溶け込み(うっかりすると通り過ぎてしまう)、中へ入ると森のように静かで、本は呼吸をするように並べてあった。

本屋が山のように風景と一体となっている街で僕は安らぎと憧れを覚えた。

 

車を運転していて知らない街に入ったとき、ガラス越しに山を見て方角や自分の居場所を確認することがある。

その山は緑に覆われ、静かに街を見下ろしている。

 

※辻山さんをお迎えするトークイベントを4/17(火)に開催します。ご予約受付中。

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