2016.12.16ブログ
先日、NHKのプロフェッショナルという番組(数少ない面白い番組の一つだ)で、デザイナー皆川明の特集をやっていた。
ファッションについて専門的な知識を持たない僕でも彼の存在は知っている。
街中で彼のブランド、ミナ・ペルホネンの鞄を見たり、その生地に身を包んだ女性を見てはっとすることがある。
そのオリジナリティとイマジネーションが通りを明るく彩る。
雑誌をめくると皆川さんに出会うことは多々あるし、何より彼の著作も時折入荷してはすぐに旅立っていく。
番組ではその多くの人を魅了するテキスタイルデザインの探求とブランドが愛される理由を紐解いていく。
生地のデザインから製作まで全てを手がけ、店頭にも立つ姿から浮かび上がるのは「誠実」や「真摯」という言葉だろう。
インタビューを通して彼に深い影響を与えているのは父親だと分かる。はっきり自ら語っている。
戦後ひたむきに真面目に実直に寡黙に働いてきた父の背中。
多くのことはテレビからは分からなかったけれど、その父親と「最近話すようになった」と語り胸がつまり言葉が出なくなるシーンは唐突に映ったかも知れないが
父と息子の関係性をよく表していた。
ここに「パパ・ユーア・クレイジー」というウィリアム・サローヤンの名作がある。
作家である父と10歳の息子が二人で暮らす日々を詩的に綴った美しく、深い物語だ。伊丹十三の訳が何とも素晴らしい。
主人公の僕(息子)が日々出会う疑問に父は正面から優しく答えていく。父と息子の会話がこの本の軸になっている。
疑問は身の回りのことから人生について、自分自身について、お金について、仕事について、世界の成り立ちについて、静かな波のようにやってくる。
父は大きな存在となってその疑問に優しく簡潔な言葉で答えていく。
「お前は毎日物語を一つづつ書いているんだよ」という言葉に心あたたまる。
世の中には幾つもの父と息子の物語があり、幾つもの父の背中がある。
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