本とわたしを離さないで

2012.03.02ブログ

ル=グウィン/ゲド戦記、平川克美/小商いのすすめ

ずっと前に古本で購入した「ゲド戦記」を最近棚から引っ張り出して、読み終えました。

「ファンタジー」という言葉で括れない奥行きというか底行きのある物語。購入のきっかけはやはりジブリで、映画を観て原作が気になっていたのです。

影との戦い、自分との戦いというのは社会と向き合い、自分と向き合えば向き合う程避けられなくなります。生活も仕事も言うなれば自分との戦いとの連続。ここではその壮大なテーマを空想の壮大な世界で描いています。空想の世界というのは無限の世界ですから、文学の使命とも言えるこの壮大なテーマはそういった世界でないと描き切れない、とファンタジーを書く作家は考えているのかも知れません。

クライマックスへ向けて海上を行くゲドの姿に何度も心が動かされました。

そして、読み進めて行く内に、もう一つ重要なテーマが書かれている事に気付きます。それは「均衡」というもの。実際この言葉が出てきます。この言葉は偶然にも先日読み終えた「平川克美/小商いのすすめ」(ミシマ社)にも頻繁に出てきます。サブタイトルにもなっていますね。これはbalanceという意味で飲み込んでいたのですが正確にはequilibriumになるようで、経済学で使われる言葉のようです。

要するに釣り合った状態(もちろん経済では需要と供給が)を指します。若いゲドは師匠達の戒めを心では納得出来ず、大きな力を使い自らを酷く傷つけてしまいます。その姿は今の日本の姿にも似ています。この「小商いのすすめ」ではその姿をとても丁寧に描き、私たちの進むべき道を示唆しています。若いゲド、そして「小商いのすすめ」の帯に書かれた「日本よ、大人になろう」の文字。この繋がりの発見が読書の喜びであり、学びなんだと私は感動しました。

ちなみにこの「ゲド戦記」が書かれたのは1968年、「小商いのすすめ」は2011年です。