2016.06.25ブログ
「つるとはな」から刊行された「須賀敦子の手紙 1975-1997年 友人への55通」があまりにも素晴らしい本だった。
本書はエッセイスト、翻訳家として知られる須賀敦子が生前に友人へ宛てた手紙がそのまま掲載されている。
そのままというのは文字通りそのままで、封筒、便箋、手紙の内容がそのままカラーで印刷されページに貼り付けられている。
滲む青いインク、切手とその消印、AIR MAILのスタンプ、ポストカード、便箋の様々なイラスト、、。
22年にわたって書かれた55通の手紙。その時代の著者の心境がたとえ他人である私たちにでさえも手を取るように伝わってくる。
手紙にはそんな不思議な力がある。
「手紙」について書いてみたいと思う。
僕は転校生だったので(小、中の間に3度転校した)、恐らく子どもにしては比較的多く手紙を書いた。
名古屋から東京、東京から栃木、栃木から神戸へと移る度に別れた友人たちへせっせと手紙を書いた。
新しい住まいのこと、学校のこと、クラブ活動のこと、スーパーのこと、駄菓子屋のこと、散髪屋のこと、新しい土地での馴れない言葉遣いのこと。
手紙は書く喜びもあるが、受け取る喜びが圧倒的に大きい。そろそろ返事が来ていまいか、学校から帰るとポストを覗き込んだリした。
特に高校へ行ってからは女の子と手紙のやり取りをしていたので返事が来ると小躍りしていた。
しかし子どものやり取りなので長くは続かない。新しい生活に慣れてくると過去は思い出としてしまいこまれ、別れた友人たちも転校していった友人にいつまでも付き合ってはいられない。
悲しいけれどそういうものなのだ、と僕は認識するようになっていた。
ただやはり手紙を書いた記憶というか体験みたいなのものはいつまでも残る。
メールやラインのやりとりとは全く違うものとして。
本を読んだ感触がいつまでも手元に残るように。
手紙を書いたこと、受け取ったこと、その一連の営みが見えない印となって僕の中にある。
手紙にはそんな不思議な力がある。
先日遠方のお客様から手紙を受け取って、飛び上がるほど嬉しかった。
これを機会にまた手紙をどんどん書いていこうか。
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