2015.11.08ブログ
当店で今人気の本がある。
「微花」という本で20代の青年が2人で作っている。
植物図鑑と謳い、内容はというと花の写真と花の名前だけが添えられている。
その写真はただ町中に咲いている花がそのまま撮られている。家の庭、軒先、道ばた、公園、何気なく通りすぎている景色にその花は咲いている。
シンプルで美しい本だ。春、夏、と出て先日秋号が届いた。
2人はお店にも来てくれた。小さな本だけれど真剣に創っているのが伝わり、こちらも応援したくなる。
さて、その秋号の表紙が「紫苑/シオン」だった。
僕はその名前を知っていた。
僕の好きな漫画「MASTERキートン」の短編に出てくる。
保険調査員のキートンさんはシオンの咲くイタリアはナポリの小さな町である凶悪なマフィアと戦う判事と出会う。
判事は仲間を殺され、遂には妻の身体を奪われ、殺されながらも、そのマフィアを追い詰める。
マフィアは「早く殺せ、お前は結局復讐のために戦っている、俺達と同じだ」と迫られるが、生前の妻の言葉を思い出し、踏みとどまる。
「もし私が殺されるようなことがあれば復讐するのではなく墓前にただシオンの花を供えて下さい」と妻は言い残していた。
その強烈な物語を読んだおかげでシオンの名前はしっかりと僕の中に刻まれた。高校生の頃だった。
花の名前はどのようにして覚えるのだろう。
祖母は牡丹が好きだった。父は秋桜が好きで、妻はプロテアという花が好きだ。桔梗は中島みゆきの歌で知った。くるりの歌詞にも花が良く出てくる。
誰かがその花を好きだと言った記憶や刻まれる物語や口ずさむ歌の中で花の名前を覚えていく。
そんな記憶を一枚一枚重ねることも生きる喜びの一つだ。
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