本とわたしを離さないで

2022.02.03ブログ

去っていく人々

昨秋辺りからお客さんの顔ぶれが変わってきた。

週末になるといつもやって来る人が現れず、代わりに最近よく見るなという人が増えてきた。

その循環なくしてお店はやって行けないから悪いことではないと思うのだが、どこか心に穴の開いたような気持ちになる。

去って行った人はどこへ行ってしまったのか。

引越したのか、感染症の影響か、品揃えに満足出来なくなったのか、僕の言動が気に入らなかったのか、仕事や家庭環境の変化か。

恐らくどれも当てはまるのだろう。

そしてもちろん引き止めることは出来ないし、その術もない。

 

僕は子どもの頃何度か転校を繰り返し、いつも去る側だった。

いつからか新しい場所に着いても、新しい人に出会っても、その先に別れがあることを悟っていて、偶然線が交わってそしてまたすれ違っていくだけのこと、とあまり感傷的にならなくなった。ならないようにしていた。

この場所に永遠に留まることはないし、人間関係も時間や環境と共に変化して行く。

そして大人になった今も根本的な考えはあまり変わらない。

出会いがあれば別れがある。もう永遠に会えない人もいるのだろう。

 

ただ、僕は今の自分の生活を捧げている自分のこの店を愛している。

愛する場所から僕が感謝してもしきれない人々が去っていくのはやはり寂しいものだとしみじみ思う。

去る側だけでなく去られる側もつらいものだ。

川のように人生が流れていくと残り時間はどんどん少なくなって来るけれど、思い出や記憶は増えていく。きっと海はたくさんの記憶を蓄えているのだろう。

僕は過去に暮らした街や遊んだ友人や好きだった人のことを良く覚えている。時々都合よく心の穴を塞ぐように思い出す。

僕の店から去って行った人が本や写真を見たりしてそんな風に思い出してくれたら嬉しい。

わざわざ駅から歩いてやって来たり、車に乗ってやって来たりした日のことを。そこで手に取った本のことを。

そんな思い出に残る場所にしていきたい。