本とわたしを離さないで

2021.04.17ブログ

新大阪駅

小中学生の頃は東京と栃木に住んでいて、実家のある神戸に帰省する際は東海道新幹線ひかりに乗って帰った。

車で帰った記憶もあるけれど、きっと親が渋滞にうんざりして電車に乗って帰るようになったのだろう。

 

新大阪駅で降りると東京とは全く違った空気を子どもながらに感じたものだった。

両親に連れられ、人ごみを掻き分けてJR神戸線に乗り込む。三宮に着く頃にはへとへとになっていて、妹はいつも母に抱きついて眠っていた。元町を過ぎ、神戸を過ぎると「まだ?つぎ?」と私は繰り返す。「兵庫、新長田、鷹取、須磨、塩屋、垂水、、、」と母は子守唄のように言う。須磨の海が見えてくる頃にはいつも陽は沈んでいた。

 

一度どういう事情かは分からないが父親と私と二人きりで新大阪駅を歩いていた。

新幹線に乗り込む前に昼食を取ろうと蕎麦屋へ向かった。子どもの事を気にかける父ではなかったから広大な駅の中をはぐれないように懸命に付いて行き、また何を食べたいかと聞くような人でもなかったから、気が付くと蕎麦屋に座っていて、見様見真似で薬味を入れて、ざるそばを啜った。葱の横にうずらの卵があって、それもつゆに入れた。味は覚えていない。蕎麦を食べた後のことも覚えていない。駅はすっかり様変わりしているからあの蕎麦屋は恐らくもうないだろう。

 

私は現在、新大阪駅から地下鉄で北へ三つ目の駅で本屋を営んでいる。