2021.03.21ブログ
「絵本のなかへ帰る / 髙村志保」(岬書店)を読んでいると、
”絵本を手にすれば、あの時読んでもらった本、と思い出が蘇る。
その思い出の中の子どもは一人じゃない。誰かが必ず傍にいる。”
という文章に出会った。
ああそうか、と思った。
先日桃の節句で長女が嬉しそうにちらし寿司を食べていた。
忙しい中、妻が作ったものだ。
にんじん、蓮根、椎茸、絹さや、錦糸卵、そしてマグロの漬けがのっていた。
娘の顔を見ていたらおよそ30年前の妹の顔と重なった。
妹も嬉しそうに母が作ったちらし寿司を食べていた。母は鮭のちらし寿司だ。
ちらし寿司を大して好きではなかった僕は何がそんなに美味しいのか、と妹が喜ぶたびに思った。
けれど、あの時の妹も母も、今の娘も妻も、幸福を顔に描いていた。一人ではなかった。横にいた僕も一人ではなかった。
長女はいつかきっと、妻のちらし寿司の味と、あの時一人ではなかったと、思い出すだろう。
僕たちは気づかぬ内に幸福の記憶を積み木のように重ねて生きている。
それは誰にも崩せない。
あの年だとか、あの夏だとか、そういうぼんやりとした長い時間ではなくて、絵本を読み聞かせたり、食卓を囲んだりしたような日常の小さな時間がふいに思い出される。
そういった記憶があれば何とか生きていけるのではないか。
積み木を一つでも多く、子どもたちに渡してやることが大人の役割ではないのか。
僕は、そんなことを考えた。
優れた本は記憶を呼び起こし、大人としての振る舞いを正してくれる。
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