本とわたしを離さないで

2020.12.16ブログ

『海をあげる / 上間陽子』(筑摩書房)

身体と心に響く文章とはどういうものだろうと考える。
文章が上手いだけでは伝わらない。
上手い言い回しや比喩ではない。
何か強烈な体験をして、それを赤裸々に語ればいい、ということでもない。
正直に、ゆっくりと語られる言葉が人の心を打つ。

読書とはどういうものだろうと考える。
本は何度でも開くことが出来る。
本を開き読むたびに「最初に戻る」、という感覚がある。
その本に書かれた声を最初に戻って何度でも聞き取ろうとする。

僕は辺野古の海を見たことがない。
その青さを知らない。
辺野古の海に土砂が投入されていることを情報でしか知らない。
かつてそこで戦争があったことを知識でしか知らない。
僕は沖縄のことを何も知らない。
この情報や知識は僕の中に蓄積されているが外に出さなければ何の役にも立たない。

この本を読んでいる間、ずっとそんなことを考えていた。

言葉を失ったあとに、娘と伴にまた絞り出すようにゆっくりと言葉を紡いできたこの本は、海のように深く、重い。
それでも、何度も読み返さなければならない。
その声が身体中に広がるまで。やがて僕の声になるまで。
僕の娘たちのために。