本とわたしを離さないで

2014.11.09ブログ

いがらしみきお / ものみな過去にありて

「いがらしみきお」という漫画家がいます。ご存知ですか?「ぼのぼの」という漫画が有名です。でも僕は「ぼのぼの」を読んだことはありません。存在はずっと知っていました。小、中学の同級生のY君が読んでいました。ジャンプとマガジンしか読んでいなかった僕は僕の知らないマンガを読んでいるY君を羨望の眼差しで見ていました。Y君は床屋の息子でした。

僕がいがらしみきおを初めて読んだのは「Sink」という作品です。これは以前書いた織田作之助を薦めてくれたS先輩に借りて読んだのです。詳しくは書きませんがこれを読んだあと、僕は1週間ほどノイローゼ気味になりました。決して面白くなかったわけではありません。というか強烈なインパクトを残して僕の心に窪みが出来たほどです。もう一度読みたいと思っているのですが、なかなか怖くて手が出ません。今度は立ち直れないのではないのかと。僕の勝手な予想では古谷実もこれを読んでいると思います。

そして掲題の「ものみな過去にありて」はそんないがらしみきおさんのエッセイです。笑いをさそうエピソードもたくさんありながら、哲学的な言葉もたくさん書いてある名著です。(と僕は思います)

「抒情」をいがらしさんはこの連載のテーマにしています。人のいない風景を見て人を想う、これが抒情だと定義されています。叙情マスターのいがらしさんが提示しているのは大きく3つです。

「やたら携帯をいじるのをやめなさい」「先のことを考えるのをやめなさい」「人のいないところに行きなさい」いや、本当に、胸ぐら掴まれて目を覚ませ、とビンタされているような気持ちになりました。また、連載の最後には本と物語についても言及されています。「物語は人の行くべき道を示したり、逆に苦しみや悲しみももたらします。家族を失くした悲しみ、それも物語だし、その悲しみを救うのもたぶん物語でしょう。そしてほとんどの物語はまず本に書かれてあるのです。まったく本は年寄りのようなもの」この文を読んだとき、僕の胸にこみ上げるものがあったのは言うまでもありません。物語、の効能について理解出来たのは村上春樹と高橋源一郎以外ではいがらしさんが初めてでした。

そんなわけでとてもとても素敵な随筆集でした。

「ぼのぼの」を読まなきゃ読まなきゃと思ってもう20年経とうとしています。。読まなきゃ。

MONOMINA