本とわたしを離さないで

2018.11.18ブログ

『港の人』上野さんのこと

昨日(11/16)、「港の人」の上野さんが鎌倉からはるばる来られた。

日が暮れたばかりでお店には仕事帰りのお客さんが数人いらっしゃった。

上野さんにお会いするのは二度目だった。

入ってくるなり鞄から菓子折りを出されて、「この度はこのような機会を頂いて、至極光栄に存じます」と頭を下げられた。

今回のフェアは僕からお願いしたものだ。

「世界」というポーランドの詩人の本が好きで、「きのこ文学名作選」という本に驚嘆して、3年ほど前から「港の人」の本をお店に置かせて頂いている。

仕入れやスペースの関係で少しずつしか置けないけれど、「港の人」から届く本はいつも美しい丁寧な佇まいで、ここの本を置くことでうちに並んでいる他の本たちも背筋を伸ばしているように感じられる。

夏葉社の島田さんに港の人の本を置いていると伝えたら、「僕は上野さんを尊敬しているんです。あんな風に本を創って行きたいんです」と仰っていた。

綺麗な本と真っ直ぐな言葉が綴られた本がたくさんあるのだけれど、少しずつしか置けないのでいつか一斉にお店に並べたいと思っていた。

うちのような大阪の小さなお店の企画を聞き入れて下さるだろうかと緊張しながら連絡したら是非お願いしたいとのことで嬉しいお返事を頂いた。

 

お店に並んだ自社の本を嬉しそうに眺め、「ご迷惑をかけていませんでしょうか」と心配し、偶然フェアを見に来ていたお客様と楽しそうに会話を交わし、写真を撮ってお店を後にしようとした。

帰り際、白髪の混じった、僕の父親に近いほどの年齢の人は、

「それでは引き続きどうぞよろしくお願い致します。光栄でございます」と言って腰から深々と頭を下げた。

創業は1997年。僕は神戸の高校生で、電車から退屈そうに毎日海を眺めていたころだ。

そんな20年以上前から鎌倉の海の側で言葉を、詩を、短歌や俳句を紡いで来たのだ。

その人が鎌倉から大阪までやって来て頭を下げている。

僕は、こういう人があの素晴らしい本を創っているのだ、と心臓をぎゅっと掴まれたように感じ、背筋を伸ばし、夕闇に消えていく後ろ姿を見送った。