本とわたしを離さないで

2018.08.28ブログ

アルテリ六号

熊本は橙書店発の文芸誌「アルテリ」の六号が好評です。

六号では創刊からこの文芸誌に協力していて、2018年2月に亡くなられた作家の石牟礼道子さんを追悼しています。

文章を寄せたそれぞれの人が石牟礼さんとの思い出を綴っています。

「アルテリ」では僕が個人的に毎号楽しみにしている執筆者の方がいて、その方は浪床敬子さんと言います。

プロフィールには「私人」と書かれていて、詩人でもなく、作家でもなく、評論家でもありません。

もちろん僕はお会いしたことはないし、どんな人かも存じません。

けれどこの方の書く文章に僕は毎号心を揺さぶられています。

浪床さんは生と死の間を慎ましく、けれど力強く生きている生命を描いていて、それは瀬戸内寂聴さんの言葉を借りれば「切に生きる」人々を描いていて、それが半年に一度、僕の心を揺さぶります。

六号では浪床さんは亡くなるひと月ほど前の石牟礼さんの施設を訪れ、その会話を記していました。

 

「俳句ば一つ・・・作りかけとります。完成させんばいかん」

「いま完成させますか」と促す。

<雲の上は 今日も田植えぞ 花まんま>

「こまんか時、天気のよか日に花をつんで、男の子たちを集めておままごとをしよりました。『花ばごちそうするけん、遊びにおいで』と」

「その風景が、今思い出す一番幸せな時ですか?」

「はい。そうですねぇ」

 

僕はこの会話に自分も最後の時には少年時代を思い出すのだろうかと考えずにはおれず、今、家や近所で友達と遊び回っている一年生の小さな娘も、彼女がこの世にさようならを告げる時にこの風景を思い出すのかも知れないと考えずにはおれず、死や幸福について思いを巡らせ、そして言葉を書き記すことの素晴らしさと重みをこの本から受け取っています。