2018.06.10ブログ
画家が何もない真っ白いキャンバスに色を、重ねていく。
最初のイメージはあるが、色が動き出すと、彼は絵がどこへ向かっているのかは分からない。
終わりの見えない孤独な旅を楽しもうと彼は絵と対話を始める。
小説家が何もない真っ白い原稿用紙に言葉を、連ねていく。
最初のイメージはあるが、次第に人や風景が動き出すと、彼はもうこの物語がどこへ向かっているのかは分からない。
その物語が心のある一点に到達するまで彼は言葉たちとたった一人で向き合わなくてはならない。
4年前にマンションの一室でお店を始めた時も、2年前に移転をして今の場所に移ったときも、部屋は真っ白で何もなかった。
家族や友人に手伝ってもらって本棚を運び込み、一人で黙々と本を並べた。
確か、今日のように蒸し暑い日々で、紫陽花が街の隙間を埋めるように咲いていた。
やがて部屋は色づいて、言葉が溢れた。
そこへ人がポツポツと入るようになって部屋が店になり、心臓のようにゆっくりと動き始めた。
一冊の文庫本が売れるだけで嬉しかった。
それから本を置かせて欲しいという人が現れたり、絵を飾らせて欲しいと言われたり、お店の写真を撮りたいという人が現れた。
一人で店を開け、人々がやって来て、帰っていき、一人で店を閉める。
孤独だと言えば孤独だし、けれど楽しいと言えば凄く楽しい。
経済的な心配はいつも背中につきまとっている。一年後にどうなっているのかさえ正直分からない。けれどそんな事はどうでもいい。
お店に溢れる言葉や、人々がやってくることで生まれる音に、飲み込まれてしまいたい。
塗り重ねられていく絵のように、終わりのない物語のように、そして毎日ページをめくるようにこの店を続けていきたい。
どこへ向かっているのかは分からない。
目標は、と問われれば続けていくこと以外にない。
心臓が止まるまで。
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