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2017.10.29ブログ
『曽我部が「田中、いま、何考えて弾いてた?」と訊いてきた。「晴茂くんがモタらないように考えて弾いてるよ」と答えたら、
「いや、そういうことじゃなくて。俺はこの曲をやるとき、当時付き合ってた彼女のことを思い出して歌ってるの。楽しかったり、ケンカしたり、その頃のことを知ってるのは田中だけだから、おまえもそういう気持ちに戻って弾いてくれ」と言われたんです。
そのときにすべてがわかった気がした。俺はうまく弾こうとすることばっかり考えていたけど、曲を演奏するってそういうことだよなと。』
この本には僕が愛するバンド、サニーデイ・サービスの全てが書かれている。
タイトルは「青春狂走曲」という。「東京」という恐らく彼らの最も有名なアルバムに収録されている曲からとられている。
本はintroの部分を除くと北沢夏音さんが初めて曽我部さんにインタビューをした95年から始まる。
7枚のアルバムと解散するその時まで、そして再結成をしてまた4枚のアルバムを出した今年(2017年)まで。
北沢さんのインタビューによって20年以上に及ぶメンバーそれぞれの日々が濃密に、甘く、苦く、痛みを伴って書かれている。
よくあるバンドの読みやすいエッセイやその功績を讃えるものでも何でもなく、ただその日々がロードムービーのように映し出されていく。
冒頭の会話は再結成のリハの時の話だそうで、僕が最も感銘を受けた会話だった。
青春は今も続いているのだ。
恥ずかしいことでもなく、カッコイイことでもなく、ただ現在も青春が続いているという現実。
北沢さんの言葉をお借りすると、「やみくもに走ったり、躓いて転んだり、死にそうになったり、生き返ったり」、そうして日々は続いているということ。
サニーデイを聴くと僕はいつも初めて彼らのCDを手にとった17歳の時を思い出す。
最寄りの駅前の小さな電気屋の2階の片隅にあったCDコーナーで「愛と笑いの夜」というアルバムを手に取った日のことを。
名前も内容も全く知らなくて、タイトルとジャケットと当時は珍しかったデジパックに惹かれて、買った。
「白い恋人」という曲が気に入って、遠く離れてしまった好きだった人のことを思い浮かべながら何度も聴いた。
今もあの頃の気持ちは自分の中に確かにあって、音楽がそれを引き出してくれる。
そうでなかったら音楽を聴く意味なんてどこにあるだろう?
自分も走って歩いて、時々躓いたりしながらまた立ち上がって店を続けていけたらいいなと思う。
この本はたとえバンドを知らなくても今もそんな風に青春を生きている人に読んでほしい。
2012.11.26ブログ
よくある質問であなたに最も影響を与えた人は誰ですか?という質問。もしくはそんな類の質問。
誰か一人に絞るのは難しい。
でも、すぐに思い浮かぶのは曽我部恵一さんということになる。し、そんな会話になればだいたいそのように答えている気がする。もう15年以上、曽我部恵一氏の動向に注目し、曽我部恵一氏の音楽を聴き続け、サニーデイ・サービスの音楽を聴き続けている。
神戸の片隅の高校ではサニーデイの音楽を誰も知らなかった。と、思う。誰にも言わずに僕は電車から海を眺めながら「愛と笑いの夜」を聞き続けていた。
幾つかの素晴らしいアルバムを発表し、バンドは解散し、曽我部恵一氏は家庭を持ち、レーベルを立ち上げ、独立した。僕はバンドのアルバムを聴き続けながら大学を卒業し、成人し、CDショップへ就職した。
バンドが解散すると、幾人かのファンは離れていったが僕は彼の音楽を聴き続けた。音は変わり、散文的で、都会の空気を吸い込んだ、松本隆のような言葉は消えたが、彼の魂のような、真実だけが胸の中から抉り取られたような言葉が飛び出してきた。ラッパーになっていたかも知れないというほど、彼の言葉への執念は凄い。膨大な数のLIVEをこなし、音源が溢れるように発売される。顔つきも違う。昔からのファンと新しいファンを獲得し、今なお躍動し続けている。
僕もいつの間にか家庭を持ち、何か導かれるように中途半端な本屋を立ち上げた。
大げさに言えば曽我部恵一氏の音楽が血となり、肉となり、曽我部恵一氏が今なお精力的に活動していることが僕に元気をくれる。
ここにある二冊のエッセイにはそんな彼の人生が詰まっている。ひとつ「昨日・今日・明日」は1999年、(MUGENを発表したころ)、もう一つ「虹を見たかい?」はその8年後に刊行されている。何を見て、何を聞き、何を思ってきたのか。嬉しいこと、悲しいこと、楽しいこと、寂しいこと。ご本人もこれは人生の本、と書いておられる。
この本からたくさんの事を学んだ。もちろん音楽も映画もたくさん教えてもらった。何でもない毎日の事が書かれているのだけれど、何でもない毎日がいかに大切なことか。
時々立ち止まっては読む、そんな大切な本。
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