本とわたしを離さないで

tag archives : トルーマン・カポーティ

2013.12.23ブログ

トルーマン・カポーティ / クリスマスの思い出



「遠い日、僕たちは幼く、弱く、そして悪意というものを知らなかった」

以前にも書いたかも知れないけれどカポーティを語る上で欠かせないキーワードに「イノセンス」という言葉がある。

誰にでもある幼少期の美しい記憶、外的世界から身を守るために作り上げた小さな世界、ある場合には仲間になる動物や老人。
多くの人々は成長するに従って、そういった記憶や思いや忘れていくものだが、カポーティは成長したあとでもその思いを忘れなかった、そういう意味ではカポーティは成長しなかった、とこの本を訳した村上春樹は書いている。大雑把に言うとそういうことをあとがきで書いている。

毎年クリスマスが来ると、主人公の7つの少年、そして遠戚のおばあちゃんと彼女の飼っている犬は大忙し。フルーツケーキを焼いて、ツリーを準備して、お互いのプレゼントを用意して。
悪意のない完璧な物語が美しい文章で語られる。また、挿絵にもなっている山本容子さんの素敵な銅版画がこの本の魅力の一つにもなっている。手に取るだけで、ああ、美しい本だな、と言える本はやっぱりある。

こういった物語が世界中で読まれていることは微笑ましいことだと思うし、文学というか芸術の持つ素晴らしい一面だと思う。
そしてクリスマスという多くの人が微笑むこの日には本当に不思議な力があるのだな、と毎年考えたりする。


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2012.08.22ブログ

トルーマン・カポーティ / 夜の樹

村上春樹の「サラダ好きのライオン」を読んでいると久々にこの文句に出会ったので、カポーティを読み直した。僕はカポーティが大好きなんです(ただ、ティファニーで朝食を、だけは良く分からない。その内分かる日が来るんだろうか)。その文句とはこちらです。
「何も考えまい。ただ風のことだけを考えていよう。」 有名ですね。恐らく。村上春樹氏もこの文句からデビュー作「風の歌を聴け」というタイトルを頂いたと述べられている。

 この文句は「最後の扉を閉めて」という短編の最後のセンテンスになっている。改めて読んでみると、本当に孤独な小説だ。もう孤独な人を究極に追い詰めている。世界中の人々に愛されるように文章はため息が出るほど本当に美しいけれど、こんなにたくさんの孤独を書く作家は恐らく他にいない。その孤独には夜のように深い闇の孤独があり、氷のような冷たい孤独がある。この人の物語を読んでいると実際に孤独という物体に触れているような気がしてくる。

 20代の時に出会って良かった。10代で読んでいたら窒息していたかも知れないと今更思ってしまった。

 でも今は、孤独な話だなあと思いながらも、その文章の美しさに心を奪われてしまう。何故だろう。家族を持って孤独に興味を失ったからかも知れない。今、孤独を書き切る作家はあまりいないのではないでしょうか。どうなんだろう。愛や孤独は語りつくされた気がする。そんな事を思いながら、書きながら、孤独ってなんだ、とまた思考がぐらぐらと揺れている。

 この「夜の樹」という短編集はタイトル作品はもちろんの事、「ミリアム」「誕生日の子供たち」など有名な素晴らしい作品が収められていてお勧めです。眠る前に読むと寂しい気持ちになれます。